受け入れられた

北海道での撮影まであと2週間。普段ならワクワクしているはずが今回は違った。船渡川さんの証の原稿を受け取って3ヶ月が経っていが動画のイメージが全く思い浮かばなっかった。撮影日までの時間だけが刻々と過ぎて行き、もはや不可能にさえ感じていたが素晴らしい証のストーリーにふさわしいアイディアが与えられることを祈った。

翌朝、アイディアが浮かばないままダイニングテーブルに座り熟考していると「風船」という言葉が頭を過ぎった。「風船」なんてと思いつつ、紙に書いてみた。そこから動画のアウトラインを書いてみたがやっぱりピンとこない。「これじゃ、まるでコメディーだ。そもそもいい案が浮かばないから試したに書いてるだけで、これではストーリーを理解出来ない。」しかし、なぜか私は書き続け、次第にそれは真っ当な物語になっていた。動画のイメージが段々と見えてきて、「さあ、どう終わる?」と書きながら楽しくなった。しかし、どんなに考えてもラストは思い浮かばずまたもや行き詰まってしまった。「明日、上原さんと会えば何か浮かぶかも知れない。」私はそう思った。

翌日、上原さんと品川駅にあるコーヒーショップで待ち合わせをして北海道の撮影の事前会議をした。「で、動画のプロットは思いついた?」「まあ、一応ね。見せるけど笑わないでくれよ。それとエンディングがまだないんだ。」上原さんは然程気にしていないようだったのでアウトラインを彼に見せた。自分でも何を言っているのかわからない気分だったが上原さんは、「うん、いいんじゃない?」と言ってくれた。さすが頼りになるなぁ、彼はとホッとした。すぐにエンディングも決まり船渡川さんに送った。

船渡川さんに娘さんがいらっしゃると聞き、年は4−6才ぐらいだと勝手に思い込んでいた。だが船渡川さんからの返信には、「10ヶ月ですが風船に興味を持ってくれると思います!」と。

予想外の返答にエンディングを変えようと試みたがどうしても上手くいくものが考え付かない。証とは神様がその人に与えてくださった恵のストーリーだ。船渡川さんの証のメッセージはなんだろう。それは、人はみな人生の目的を与えられているということ。そう考えた時、娘さんの年齢は関係ないのだと気付いた。後にもう一つ予想外のサプライズが待ち受けているのだが、それは一先ず置いておいて、さあ、北海道での撮影が楽しみになってきたぞ!

「木曜日の天気予報は雨。」

船渡川さんからの連絡にはそう書いてあった。いつものことだ。撮影は日本各地で行うがその都度天気予報は雨。だが、奇跡的に撮影中に雨が降ったことはない。雨が降るのは決まってランチブレークの時だけ。前日になっても雨の予報は変わらなかったが信仰によって進む他はなかった。

翌朝、船渡川さんのオフィスへ到着するとテーブルの上に赤い風船が二つあった。船渡川さんはヘリウムタンクを取り出した。「船渡川さん、買ってくださったんですか?」「いいえ、子供たちのためにいつもあるんですよ。」神様はこの様な事さえもご存知で用意してくださっていたのだ。その後、私たちは撮影のため近所の公園へ向かった。

「あっ!しまった!」風船の紐を離してしまった船渡川さんがアタフタしていた。赤い風船が朝の空を高く登る切なくも美しい光景を私たちは眺めた。風船はこのストーリーに1番重要な小道具。空に解き放つのはラストシーンのはずだったのだが。。。それにしても青空に舞う赤い風船の美しいこと。やっぱり今回も雨は降らなかった。実は船渡川さんは風船も紐も環境に害のないものを選んでいたのだ。上原さんが車へ戻り予備の風船を持ってきた。予備があった事に感謝!それからというもの、大の大人が5人がかりで風船が飛んで行かないように紐を握った。公園での撮影が終わり、昼食に美味しいスープカレーの店へ向かった。店の窓際席に座った私たちは外で強く降る雨を眺めた。昼食が済み、外へ出ると再び雨は止んでいた。

「赤、青、黄色。」

衣装のことを船渡川さんに聞かれたとき私はそう答えた。カラーテーマは衣装だけ。予算なしでセットは作れない。最初の撮影現場の公園へ行ってみると黄色い花が沢山咲いていた。その後、街へ移動すると青いビルや家、赤い建物や黄色い車があちこちにあり、青空も含め街中がカラーテーマに沿って用意されたセットのようだった。制作クルーの私たちさえも黄色と青のシャツを着ている事に気付いた。神様が最初から用意してくださっていたセットに驚く私たちをみて神様は喜んでおられただろう。

「娘よ、あなたにはまだ分からないかもしれないが、私や他の誰かの想像を遥かに超える大きな計画を神様はあなたの人生に用意しているのだよ。」

もう一つの予想外のサプライズに私たちは大きな影響を受けた。その時はまだ娘さんにお会いしたことがなく、数日後に送られてきた写真を見てダウン症であることを初めて知った。彼女も大きな目的を持って生まれてきたのだとう思いに胸が熱くなった。幼い頃、母が障害を持つ子供たちのための保育所を運営していたため障害を持つ子供たちの存在は大きな喜びであると知っていた。しかし、幼かった私はその一人一人の命に目的が与えられているのだとまでは理解していなかった。船渡川さんの娘さんにお会いし、神様は実に全ての人に目的を与えているのだと知った。「そうは言っても彼女は大学を卒業したり、企業のトップに立ったり、スポーツのスター選手になどなれないでしょ」という人がいるかもしれない。しかし、彼女はたった10ヶ月という若さで既にショートフィルムの出演を果たし、大半の人が生涯で人に与える影響の何倍も影響している。彼女はまだ喋ることも出来ないが私たちを含め多くの人々の心に触れいるのだ。

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